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2019.01.31
救急処置の基礎知識 3

1 皮膚などに傷の無い怪我の処置

1、RICE処置の重要性

a,スポーツ外傷とは転倒や衝突などの1回の外力により組織が損傷されることで受傷機転が明確である場合がほとんどである。その外力の中には打撲のような直接的に外力を受ける直達外力と、靭帯損傷のような間接的な外力を受ける介達外力がある。

b,炎症とは刺激に対する局所的な組織レベルの反応である。

炎症には発赤、熱感、腫脹、疼痛、機能障害の5つの徴候がある。

①異物に対する生体反応、②修復開始のために壊死した細胞を排除する、

③正常な組織の再生促進する目的がある。

炎症反応は組織の再生のためには必要な反応であるが過剰な反応は組織の損傷を拡大する。

c,組織の損傷

①1次的外傷性損傷 : 外力により直接的に引き起こされる

②2次的外傷性損傷 : 1次的外傷性損傷部位の周囲に2次的低酸素症が起こり周囲の組織を損傷してしまう。

組織の損傷→内出血→腫脹→内圧上昇→循環障害→酸素欠乏状態

d,アイシングの効果

組織の代謝レベルを下げる作用がある。

外傷による炎症が起こると代謝レベルが上がる→多くの酸素、栄養を必要とする→組織の損傷により供給不足になり2次的低酸素症の状態になる。

アイシングすることで細胞の代謝レベルを下げ2次的低酸素症を最小限に抑え、2次的外傷性損傷を抑制することができる。疼痛の抑制の効果もある。

e, RICE処置とはrest(安静)、ice(アイシング)、compression(圧迫)、elevation(挙上)の事である。

f, RICE処置の実際

氷、ビニール袋、氷嚢、弾性包帯が必要。場合によりシーネや台が必要。

アイスパックの中に空気が入ると冷却能力が低下するのでパック内の空気は全部抜く。

圧迫の際には非伸縮性包帯やタオルより弾性包帯の方が圧迫力の調整がしやすく、血行障害や神経障害が起きにくい。

2、RICE処置の留意点

a)冷却媒体 冷却媒体の氷が皮膚表面に密着していることが必要。

板状の平らな表面を作るのにてきしたキューブアイス:大腿部等の平らな場所を冷却するのに適す

凸凹のある面に対応し易いクラッシュアイス:足関節など関節部位

氷の温度:冷却効果を最大限に発揮する温度は個体から液体に変わる0℃である。マイナス温度の氷は氷の持つ能力を十分に発揮できないばかりか凍傷を引き起こす危険性がある。

ゲル状のコールドパックや、ケミカルパックの使用には十分な注意を払う必要がある。

b)冷却時間 1回につき20~45分間を目安に行う。指と大腿部とでは必要な冷却時間に差がある。

アイシングの間隔は1~2時間に1回、間欠的に行う事が望ましい。外傷の重症度(痛み、腫脹)に応じて24時間~72時間適用する。

c)凍傷 :寒冷環境下において皮膚や皮下組織など局所的に組織が凍結することによって起こる皮膚障害である。感覚障害、血行障害など。冷却媒体の温度、・種類、冷却時間、圧迫の度合いなどにより発症する。

d)湿布薬の使用:湿布薬には痛みを緩和したり炎症を和らげる成分が含まれている。

湿布薬には冷湿布と温湿布がある。温湿布は血行を促進し代謝を高めるので急性期には適しない。

冷却効果はアイシングにおとるので受傷直後はアイシングを行い、就寝時は湿布にするなど使い分けると良い。

e)コールドスプレーの使用

特徴を十分理解する必要がある。アイシング効果はほとんど見込めない。スプレーした局所は冷却感を感じる事ができるが、一時的な痛覚麻痺の効果のみで急性期の救急処置としての効果を得るには十分ではない。使用には患部から数十センチ離し、数秒間のスプレーをすると書かれている。長時間のスプレーは凍傷の危険性がある。

f)日常生活の注意

外傷の急性期には血行を促進するような行動は避けるべきである。入浴、飲酒、移動など十分に配慮が必要。

g)アイシング適応にならない人:アレルギー反応や循環障害を起こす人はアイシングを行わない。

寒冷蕁麻疹、レイノー現象、神経障害には注意が必要

3、RICE処置の具体的方法

a)足関節 足関節は凸凹の多い関節なのでクラッシュアイスを使用し関節に密着するように当て、痛めた靭帯を伸ばさない方向に固定圧迫を行う。アイシングのインターバル中はU字パットを当て圧迫固定し腫脹を軽減する。なるべく患部を心臓より高い位置に上げておく。

b)膝関節 膝関節も凸凹ののある関節なのでクラッシュアイスを用い、痛めた靭帯のみならず関節周囲全体を包むようにアイシングを行う。

c)大腿部 患部が平らな部位なのでキューブアイスを用いいて平らなアイスキャップを作りアイシングをする。肉離れの際は痛めた筋繊維を弛緩させた位置で行い、打撲の際は伸展させた状態でアイシングを行う。

d)アキレス腱 アキレス腱のアイシングもできればクラッシュアイスを使用する方が密着度は増すので良いと思う。下腿後側、アキレス腱は弛緩させた状態にてシーネ等で安静固定しアイシングを行う。

e)腰背部 一番楽な体位でRICE処置を行う。腰背部は腹部に近いのでアイシングによる消化器官への影響に注意を払う必要がある。

f)肩関節 肩関節は可動域が広い関節なのでずれないようにしっかりと固定する必要がある。上肢を体幹に引き寄せるように固定し安静を図る。

g)その他 格闘技経の競技やラグビー等の耳にカリフラワーイヤーと呼ばれる血腫が生じる。その耳介へのアイシングは柔らかいクラッシュアイスかゲル状のコールドパックを使用する事が多い。突き指の際は紙コップに氷と水を入れて、そこに指を入れてアイシングする。

h)アイシングシステムの利用 機械を使用して冷却水を循環させて24時間冷却を管理するもので、急性期の管理や術後の管理に貢献している。


2019.01.23
救急処置の基礎知識 2

スポーツ現場における救急処置

1 スポーツ現場における救急処置を学ぶ意義

スポーツ現場で発生する様々な傷害に対処できるように、救急処置に関する知識と技術を身につけておく必要がある。

救急法とスポーツ現場における救急処置

         救急法         スポーツ現場における救急処置

行為者     一般市民         指導者、AT、教師、アスリート自身

発生場所   どこで起こるかわからない     スポーツ現場

外傷・障害の種類 想定不可能          想定可能

緊急対応計画   なし             必要

かかわりの範囲  医療者へ引き継ぎまで     競技復帰まで

資機材      通常なし           事前準備

2 緊急対応計画と評価手順

1)スポーツ現場における救急処置の定義と業務内容

定義 : スポーツ現場における傷病者に対する救急処置およびサポート

業務内容 

a、スポーツ現場における救急体制を確立し緊急時の対応計画を作成し、実施する。

b、受傷時の外傷、障害の評価及び適切な救急処置を実施する。

c、救急時の救命処置を実施する

2)救急対応計画

a、緊急の定義を決めておく

b、最初の対応者を決めておく(AT or 指導者)(地位、資格や具体的な人物名)

c、対応車の役割を決めておく

d、対応に必要な応急処置資器材の確保と保管場所

e、医療機関の電話番号

f、医療機関への連絡者と連絡方法など

関係者全員に周知徹底させ、定期的に訓練を行う。(年度替わりなど人の移動時期は注意が必要)

3)評価手順(フローチャート)

どの様に状況を把握して、どのように行動するか。

緊急対応計画が総論なら、評価手順は各論であり、競技やチームのサポート体制によって異なる。

競技のルール、競技場所(ホームなのか遠征先なのか)、連携できる医療スタッフはいるのか、フローチャート作成においては色々な状況を検討して作成する。

3 スポーツ現場での外傷、障害の評価とその手順

1)外傷、障害の発生直後の正確な評価とそれに伴う適切な判断と救急処置が必須となる。

2)スポーツ現場における外傷、障害の評価の目的は協議を続行させられる状態であるか否かを判断することである。

生命の危機を除外できた(第1次評価)後、外傷・障害の情報収集を行い判断する(第2次評価)を系統だてて行う必要がある。(on field evaluation)(グランド上評価)という。

A 第1次評価(緊急性の判断)

a)心肺停止

b)気道閉塞

c)意識の消失

d)頭部外傷、頚部損傷

e)てんかん・全身けいれん

f)吐血

g)大出血

h)士かな変形

i)ショック状態

j)その他

ATは常に競技中の競技者の状況を注意深く観察しなければいけない。

異常発生を確認した時点から第1次評価が始まる。

最初に行わなければいけない事は状況の把握。

異常が発生している競技者に接近する事は安全か?ルール上許されるか?を判断

ATにとっても他の競技者にとっても安全性は保たれているか?

競技者に触れる事がその選手にとって失格とならないか、

何が起きたのか(起きているのか)評価する。

本人から直接聴取するが、できない場合回りの競技者から事情を聴かなければいけないこともある。

緊急性が疑われる時は緊急対応計画に従い医療機関に搬送するために救急隊を要請する。

救急隊への状況説明や搬送の補助などを行う。

第1次評価 生命を脅かす緊急事態の有無の確認

   緊急事態あり⇒緊急対応計画に基ずく対応(救急病院へ搬送)

   緊急事態なし⇒第2次評価へ

第2次評価 外傷・障害上方の収集

   競技の続行を許可⇒応急処置+競技中、終了後の経過観察

   競技の続行を禁止⇒1、応急処置+チーム内で経過観察

            2、応急処置+かかりつけ医受診

            3、応急処置+専門医受診

B 第2次評価(外傷・障害の情報収集)

アメリカのグランド上評価はHOPSS評価法が一般的

 a)Histry(聴取): 受傷機転や主訴を中心に聴取する。(既往歴、受傷時

           に受けた力の方向、音の有無など)

 b)Observation(観察): 明らかな変形、腫脹、変色、創の有無など(健側と

           比較する)

 c)Palpation(触察): 腫脹、熱感などを確認する。広範囲に触れて健側と比

           較する

 d)Stress test(負荷検査): 靭帯構造に大きな破綻が確認できない場合(受傷部位に負荷をかけても問題ないと判断される場合)、受傷部位の可動域と筋力、動きに伴う痛みの有無を評価する。健側から初めて結果を比較する。

グランド上評価の目的は競技続行の可否を判断するために行う。

 e)Special test(特殊検査): 外傷・障害を特定するための検査で、関節の動揺性や痛みの誘発検査がある。損傷程度を悪化させたり不必要な痛みを競技者に与えることがあってはならない。

HOPSSテストで問題がないと考えられる場合、運動機能テストを行う。

下肢の屈伸→その場駆け足→ランニング→ジャンプ→軽い対人の当たりなど

この判断には競技への深い理解が必要となる。

グランド上の評価は小さなノートにメモを取っておくかボイスレコーダーに残し後で記録を残しておく。


2019.01.23
救急処置の基礎知識 1

1救急処置の重要性

1、救急処置の意義

けが人や急病人が発生した場合、近くにいる人がどのような処置を行うかで、その後の傷病者の状態に大きな影響が出る。

心停止の傷病者は4分以内に心肺蘇生を開始し、8分以内に救急隊員や医師による処置や治療に引き継ぐことができれば救命率がかなり高くなる。

脳は低酸素や無酸素の状態に非常に弱く、一刻も早く脳に酸素を送り込まなければ大きな問題となる。

救急隊や医師が到着するまでに近くにいる人はだれでも救急処置を行うべきであり、その意義を理解しておくべきである。

2、スポーツ現場において

スポーツ現場においてはいつどんなアクシデント起こるかわからないので、指導者、アスレティックトレーナーのみならず、選手自身も仲間を守るために救急処置を学ぶ必要がある。

スポーツ現場においては予測できる事故に対してあらかじめ救急処置や救急体制を確立しておくことは大切なことであり、十分な教育を行っておく必要がある。

2救急処置者の心得

1、救急処置の範囲

現場での救急処置は傷病者に対して迅速に処置を行い、救急隊や医師に引き継ぐまでが範囲となる。

突然に傷病者が心肺停止もしくはそれに近くなったら、近くにいる者達はただちに心肺蘇生法を行い、AED(自動体外式除細動器)を準備し連携して行わなけばいけない。

救命処置には1次救命処置と2次救命処置がある。

1次救命処置とは心肺蘇生、AEDを用いた除細動、気道異物除去の3つの事を言う。これはAEDや感染防止のための簡便な器具以外には特殊な医療器材を必要とせず、特別な資格がなくても誰でも行う事ができる。

2次救命処置とは、高度な医療資材を用いて医療従事者が行う処置を言う。

応急手当とは市民による止血法を含む諸手当で、頚椎固定、傷・やけどの手当て、骨折・捻挫の手当てなどである。

救急処置の目的は救急隊や医師へ引き継ぐまで傷病者の状態をより悪化させないようにするために行われることを認識しておくべきである。

2、救急処置を行う場合守るべき事

a,自分自身の安全を確保する。周囲の状況を観察して2次事故の防止に努める。

b,原則として医薬品は使用しない。

c,あくまで医師などに引き継ぐまでの応急手当にとどめる。

d,必ず医師の診察を受ける事を勧める。

e,死亡の判断を行ってはいけない。

3救急処置の基本的注意点

1、救急処置に必要な基礎知識

傷病者の状態を良く観察し、緊急性の判断を行う。

直ちに処置が必要な場合:意識障害、気道閉塞、呼吸停止、心停止、大出血、ひどい火傷、中毒のような状態に陥った場合  このような場合は直ちに適切な処置を行う事が求められる。

いくつかの傷病が合併して発生している場合は緊急度の高い傷病から手当する。

2、救急処置の基本事項

a,観察

周囲の状況の確認、傷病者の状態の観察。なるべく短時間に判断し、処置や通報を行う。

生命の徴候 : 意識、呼吸、脈拍、顔色・皮膚の状態、手足を動かせるかを調べる。

b,体位

傷病者を安全な場所にいつもお世話になっております。移動させ傷病者が楽な体位にして安静を保つ事が基本。楽になるような体位の原則は水平に寝かせる事である。側臥位、腹臥位も含む。

1)意識がある場合

傷病者にとって一番楽な体位をとらせる。顔面蒼白の場合足を高くした体位。

2)意識がない場合

舌根沈下により窒息しないようにそのままの体位で気道の確保を行う。

反応はないが正常な呼吸をしている場合で吐しゃや吐血などがみられる場合側臥位の回復体位にする。下になっている腕の血管や神経が圧迫され損傷をきたすこともあるので、長時間の同側の回復体位を継続することは避ける。

心肺蘇生法を行う場合は仰臥位にしなければいけないが、頭頚部が捻じられないように注意して体位変換を行う。

c,傷病者への接し方

1)傷病者への力づけ : できるだけ傷病者に傷や血液、吐しゃ物を見せずに、傷病者が安心できるように精神的な力づけをすると良い。

2)安静 : 動揺の激しい搬送は行わない。周りの人が騒ぎ立てない。体位・保温、環境が適切でなければ安心して休めない。

d,感染対策

患部の十分な洗浄、消毒、保護が必要。

救助者は自分への感染対策のためビニール手袋やゴーグルを使用し、一方向弁付き呼気吹込み用具などの使用が推奨される。日頃から感染対策の意識を高めていくことが重要。

e,協力者の養成、連絡、通報

必要に応じて連絡、通報、記録、搬送の協力を依頼し、迅速かつ円滑な対応ができるようにする。


2018.12.04
サッカーのコンディショニング

サッカーの競技特性
広いフィールド内を22人のプレーヤーがゴールキーパー以外手以外身体のあらゆるところを使ってボールを相手ゴールに入れる競技です。
実際のプレーでは豊富な運動量をもとにダッシュ、ジャンプ、スライディング、急激な方向転換、キック動作など高度な運動を、相手と競り合いながら繰り返し行う競技です。
緩急交えて90分間休みなく走り続ける能力、瞬時に試合を決定づけるパワーやスピード、あらゆる環境を乗り切る強い精神力も必要な能力です。
アクティブなコンディショニング
1)ストレッチング
下肢(特に股関節周囲)筋群を中心にスタティックストレッチングやパートナーストレッチングを行う。伸張させる筋をしっかりと意識して行う。最近ではストレッチポールを使用したストレッチも行われている。
2)プールエクササイズ
練習後、試合翌日などにプール内で行われる軽運動やストレッチングは、水圧を利用して血流増加を促し早期の疲労回復が図られる。
股関節の運動を中心に水の抵抗を利用して下肢、腰部等の筋を動かして疲労を改善させる。(30~40分程度)
3)有酸素運動(ジョギング、バイクなど)
一般的な疲労回復運動で、低負荷の運動に疲労物質である乳酸等が利用されることから、ストレッチやリラックス(サッカーテニスなど)と組み合わせて行う。

障害予防
体幹スタビリティエクササイズや柔軟性向上エクササイズ
サッカー特有の動きの中で筋のアンバランスが生まれ、鼠径部周囲の疼痛や運動痛、腰背部の運動痛、膝関節・足関節の疼痛・運動痛等障害に繋がる症状が発症してくる。
サッカー特有の動きで疲労して筋肉が短縮する傾向にある筋群と弱化して行く筋群がある。
疲労して短縮している筋群はストレッチをしっかり行って十分な柔軟性を確保する必要がある。反対に弱化傾向にある筋群については補強する必要がある。腹筋、殿筋群がそれで、下腿三頭筋、股関節屈筋群、内転筋群、膝関節屈筋群、脊柱起立筋群の下部などは短縮する傾向にある。最近では股関節外転筋群として働く中殿筋などの弱体傾向により、上半身の重力が支えきれずに骨盤が傾斜したり側方移動することで下肢のアライメントが影響を受けて障害に繋がるケースも多くみられる。
競技特性から見た身体や筋の特徴を理解してコンディショニングを組み立てていく事が大切です。


2018.11.05
腰痛を考える

腰痛の分類

a,筋筋膜性腰痛

1)疲労性腰痛

2)筋筋膜自体の損傷による腰痛

3)筋緊張による腰痛

b,脊椎性腰痛

1)椎間関節性腰痛

2)変形性腰椎症

3)腰椎分離症、すべり症

4)骨粗鬆症(圧迫骨折)

5)腰椎椎間板ヘルニア(腰椎椎間板症)

c,その他

悪性腫瘍骨転移、内臓性腰痛、心因性腰痛、股関節痛など

〇筋筋膜性腰痛

腰痛症の中で、筋・筋膜性腰痛症が多くの割合を占めています。

筋膜性腰痛症の症状は動作時痛が主体なので、安静をとると軽減します。

腰背筋膜は腰部全体を覆っているので、痛みの部位も骨盤の両脇から、仙骨、背部にいたるまで、さまざまです。

筋・筋膜性腰痛症は筋疲労や姿勢異常が原因となります.

椎間板変性や変形性脊椎症、腰椎分離・すべり症、骨粗しょう症などの原疾患が基盤にあり、二次的に筋・筋膜性腰痛症を起こしている例も少なくありません。

筋・筋膜性腰痛症は除外診断的な要素が多く、腰椎椎間板ヘルニアや分離症を否定しておく必要があります。

足のしびれや、筋力低下、坐骨神経痛があれば、MRIなどで他疾患を疑う必要があります。

筋・筋膜性腰痛症であれば治療はリハビリや薬物療法その他保存療法が主体となります。再発傾向の強い方は原因の精査と治療が必要です。

〇椎間板ヘルニア

腰や臀部が痛み、下肢にしびれや痛みが放散したり、足に力が入りにくくなります。

椎間板は線維輪(せんいりん)と髄核(ずいかく)でできていて、背骨をつなぎ、クッションの役目をしています。

その一部が出てきて神経を圧迫し症状が出ます。

加齢などにより椎間板が変性し断裂して起こりますが、悪い姿勢での動作や作業、喫煙などでヘルニアが起こりやすくなることが知られています。

痛みが強い時期には、安静を心がけ、コルセットや腰サポーターをつけたりします。

また、消炎鎮痛剤の内服や坐薬、神経ブロックを行い、痛みをやわらげます。

腰を温めるのも効果的です。痛みが軽くなれば牽引(けんいん)や運動療法を行うこともあります。

これらの方法でよくならない場合や下肢の脱力、排尿障害があるときには手術をお勧めすることがあります。最近では内視鏡を使った手術も広く行われるようになってきました。

〇脊柱管狭窄症

この病気では長い距離を続けて歩くことができません。

もっとも特徴的な症状は、歩行と休息を繰り返す間歇性跛行です。

腰部脊柱管狭窄症では腰痛はあまり強くなく、安静にしている時にはほとんど症状はありませんが、背筋を伸ばして立っていたり歩いたりすると、太ももや膝から下にしびれや痛みが出て歩きづらくなります。

すこし前屈みになったり、腰かけたりするとしびれや痛みは軽減されます。

加齢や背骨の病気による影響で変形した椎間板と、背骨や椎間関節から突出した骨などにより、神経が圧迫されます。

脊柱管は背骨、椎間板などに囲まれた脊髄の神経が通るトンネルです。年をとると背骨が変形したり、椎間板が膨らんだり、黄色靱帯が厚くなって神経の通る脊柱管が狭くなり、それによって神経が圧迫され、血流が低下し脊柱管狭窄症が発症します。

椎間板ヘルニアに比べ中高年に発症することが多いようす。

日常生活上の注意としては、姿勢を正しく保つ事が必要です。神経の圧迫は腰をまっすぐに伸ばして立つと強くなり、前屈みになるとやわらぎますので、歩く時には杖をついたりして腰を少し屈めるようにすると楽に歩けます。

また、自転車でのトレーニングも痛みが起こりにくいので、よい運動になります。

治療としてはリハビリテーション、コルセット、神経ブロックや脊髄の神経の血行を良くする薬などがあります。これらで症状が改善することもあります。

しかし、歩行障害が進行し、日常生活に支障が出てくる場合には手術を行うこともあります。また両足に症状が出ている場合には、改善することが少ないので手術を行う場合が多いわけです。最近は内視鏡を使った手術も行われています。

〇腰椎分離症

腰痛の場合と、お尻や太ももの痛みを出す場合があります。

痛みは腰椎を後ろにそらせた時に強くなります。多くは体が柔らかい若い時期に、ジャンプや腰の回旋を行うことで腰椎の後方部分に亀裂が入って起こります。
外傷のように1回で起こるわけではなく、スポーツの練習などで繰り返し、疲労の蓄積などから起こります。

分離症が原因となり、その後腰椎の位置がずれ、分離すべり症に進行していく場合があります。

分離症があっても強い痛みや日常生活の障害なく生活できる場合が大部分です。腹筋・背筋を強化して、一般的な腰痛予防を心がけましょう。
日常生活や仕事に支障が生じれば、神経の圧迫を除去する手術が行われます。

〇変形性腰椎症

椎間板が傷み、厚みが減り、椎間板に接した椎体が骨硬化し、前後に骨棘ができます。後方にある左右の椎間関節も傷んできます。

変形性腰椎症が高じて、脊柱管が狭くなった状態が、腰部脊柱管狭窄症です。腰痛だけでなく、脚のしびれや痛みがでてきたら、この腰部脊柱管狭窄症を考えます。

椎間板だけが傷んでいてそこから痛みがでる場合は腰椎椎間板症、傷んだ椎間板が何かのきっかけで膨らんだり飛び出したりして神経を圧迫して脚の痛みがでる状態を椎間板ヘルニアと呼んでいます。

内服薬は消炎鎮痛剤や筋弛緩剤などを含んだ外用薬、温熱療法などの理学療法などが中心です。また、痛みが強い部位への注射や神経ブロックなどを行うこともあります。痛みは安静で治ることも多く、手術を必要とすることはありません。
〇骨訴訟症

骨粗鬆症は、痛みが発生しないものが大半です。しかし、転ぶなどのちょっとしたはずみで骨折しやすくなります。骨折が生じやすい部位は、背骨、手首の骨などです。

骨折が生じると、その部分が痛くなり動けなくなります。また、背中や腰が痛くなった後に、丸くなったり身長が縮んだりします。

骨の絶対量が減少した状態であり、老人性骨粗鬆症が最も多く、閉経後の女性に多く見られます。高齢者が軽く尻もちをついただけで強い腰痛を訴えた場合は、骨粗鬆症を起因とした脊椎の圧迫骨折が疑われ、股関節を痛がる場合は、大腿骨の頸部骨折(けいぶこっせつ)が疑われます。

内服薬や注射(副甲状腺ホルモン)などによる治療を行います。骨折した場合は、それに応じた治療が必要です。閉経後の女性には、整形外科医の定期的な検診をお勧めします。

いずれの腰痛症の痛みに対しも鍼灸治療が効果的に症状の軽減に作用することが多く、保存療法の選択においては一考に値する治療方法と思われます。


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